ブラシレスモータ:モータの性能の違い②
         寿命、発熱、振動 etc.

まえがき:より踏み込んだ性能へ

ブラシレスモータ 違い 寿命 発熱 振動

前回はモータの「①回転数(速度)」、「②トルク」、「③大きさ」、「④価格」という要素で、モータについて論じてきました。これらの要素がアプリケーションとマッチしていることは、モータを利用するうえで最低限必要なことでしょう。逆に言えば前提条件のようなもので、見当はずれなモータ選定をすれば目的通りに機能すらしません。

今回論じる要素はもう一つ踏み込んだモータのクオリティや付加価値といったものです(①回転の精度、滑らかさ、②寿命・保守性・発塵性、③振動・騒音、④ 効率・発熱、⑤ 特殊な動作環境)。用途によっては気にする必要のない要素であったり、あるいは絶対に欠かせない重要な要素であったりします。

前述した通り、価格も含め、すべてに優れたモータというものはありえず、どういった用途に使い、どういった性能を持ち、それはどういった構造や工夫からなるのかを明らかにしていきます。

回転の滑らかさ、回転の精度

安定した回転数(速度)でモータを回す場合、どんなモータでも高速のときは慣性により均一な回転数(速度)を維持しますが、低速のときはモータのコア形状によって差が現れます。

スロット付きブラシレスモータの場合、スロットのティースとロータの磁石の間に働く吸引力により、低速の時はリップル(脈動)が発生します。一方、弊社で取り扱うスロットレスブラシレスモータの場合、ステータコアと磁石の距離が周方向で一定(=磁気抵抗が周方向で一定)であるため、低速でもリップルは発生しづらいです。

通電していないモータのシャフトを手で回した時、スロット付きモータはゴリゴリとした抵抗を感知できますが、スロットレスモータにはそれがなく、スムーズに回せます。ゴリゴリという抵抗は先述のティースと磁石の間に働く吸引力によるもので、この抵抗をコギングと呼びます。

スロット付きモータはコギングトルクよりも大きいトルクで駆動させなければ回転しません。スロットレスモータはコギングトルクが小さいため、小さいトルクでも回転できます。

寿命・保守性・発塵性

ブラシ付きモータとブラシレスモータの比較で最も挙げられる要素が、寿命、保守性、発塵性です。

ブラシ付きモータはブラシと整流子が接触したまま回転する以上、どうしても摩擦によって接触部がすり減るため、寿命が限られていることと、それゆえにモータを丸ごと交換することが必要になること、また摩耗粉による発塵が問題となります。ブラシレスモータはその名の通りブラシが無いため、寿命、保守性、発塵性がブラシ付きモータよりも優れています。

振動、騒音

ブラシ付きモータはブラシと整流子の摩擦による振動、騒音が発生しますが、ブラシレスモータは発生しません。スロット付きブラシレスモータはコギングトルクに起因する振動、騒音が発生しますが、スロットレスモータ、コアレスモータは発生しません。

ロータの回転軸と重心にズレがある状態をアンバランス(不釣合い)といい、アンバランスがあるロータを回転させると振動、騒音が発生し、モータ回転数が高くなるほど大きくなります。弊社のブラシレスモータはロータをバランシング(バランス修正)しており、かつ組み立てた時に偏心しない設計をしているため、振動、騒音が抑えられています。

効率・発熱

入力した電気エネルギーに対して出力される機械エネルギーの比率が、モータにおいての効率となります。機械エネルギーにならなかった損失は、ほとんどが熱エネルギーとなり、モータは発熱します。

モータの損失には銅損(巻線の電気抵抗による電力損失)、鉄損(ステータコアのヒステリシス損、渦電流損)、機械損(軸受、ブラシの摩擦抵抗による損失、空気抵抗による損失:風損)があります。

銅損はマグネットワイヤを太くして巻線抵抗を下げることで低減できます。しかしマグネットワイヤを太くすると巻線がモータに収まりづらくなるため、巻線構造を工夫して占積率(巻線の断面積に占める導体の割合)を上げつつ、モータに収まる巻線を設計する必要があります。

鉄損は回転磁界の周波数が高いほど大きくなるため、回転数が高いモータほど鉄損による発熱は大きくなります。鉄損の内、渦電流損は積層鋼板を薄くすることで抑えることができます。

機械損について、ブラシ付きモータは常にブラシと整流子の摩擦抵抗による機械損が生じますが、ブラシレスモータでは生じません。軸受について、転がり軸受(ボールベアリング)は滑り軸受けに比べて摩擦係数が小さいため、モータ効率が高められます。弊社のモータはボールベアリングを採用しています。

発熱の厄介なところは、熱そのものについて制約のないアプリケーションであっても、モータが熱を帯びることで性能が低下することです。巻線は熱くなると電気抵抗が増えて電流が流れにくくなり、トルクが小さくなってしまいます。また、磁石はモータ温度が高くなると熱減磁により磁力が低下してしまいます。したがって、発熱は無視できません。

このうち発熱による磁石の熱減磁についてはネオジム磁石よりも、サマリウムコバルト磁石の方が小さく、モータ温度が高くなる用途で選択されています。

ブラシレス 損失 銅損 鉄損 機械損 ヒステリシス損 過電流損 摩擦損失 風損

ブラシレス ボールベアリング
<弊社のブラシレスモータ>

特殊な動作環境

半導体露光装置、FPD(Flat Panel Display)露光装置では位置決めモータが使用されています。露光工程においてはフォトレジストに光を照射したときに発生するガス(アウトガス)により光学部品を曇らせてしまう問題があります。そのためアウトガス発生量が少ないフォトレジストが求められています。

位置決めモータにおいても同様に低アウトガスが求められており、弊社の低アウトガスモータのベアリングはフッ素系グリース、リード線絶縁体はフッ素樹脂、接着剤は低アウトガス対応品を使用しています。

クリーンルームで使用されるモータは低発塵性が求められています。ブラシ付きモータは摩耗粉が発生するためブラシレスモータがよく使用されます。またケミカル汚染物質の発生が小さいモータが求められ、弊社では材料選定されたケミカル対策済みのブラシレスモータをご提供しています。

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